あそびにっき

流し目の姫。

―― 余白が語る人、温度で惹きつける人。


画面が切り替わった瞬間、空気が一段やわらいだ。大きな仕草はない。けれど、視線の置き方――ほんの数秒だけ流れるように横へ外す、その“間”がこちらの呼吸をゆっくり整えていく。言葉を重ねすぎない人だ。必要な音だけを、必要なタイミングで置いてくる。残りは、沈黙と微笑みが引き受ける。

会話は、たとえるなら温度のグラデーション。はじめは昼下がりのぬくもり、やがて夕景の色合いに変わり、気づけばナイトキャップのようにやさしい余韻が喉奥にとどまる。話題は日常の細片――マグの柄、最近読んだ本、気に入っている音。どれも特別ではないのに、彼女の手に渡ると小さな物語になる。

印象的だったのは、視線の“置き所”。まっすぐ見つめるときは迷いがなく、外すときはふっと力を抜く。こちらが言いよどむと、すこしだけ斜め下に視線を落として待ってくれる。急かさない。その数秒が、言葉を探すこちらの背中をさりげなく支える。気づけば、普段なら選ばない言い回しを、自然に口にしていた。

飾り立てた演出はない。けれど、所作の端々にリズムが宿っている。マイクを寄せる角度、椅子を引く音の小ささ、グラスを置く瞬間の静けさ。どれもが“雑音”にならず、むしろシーンを整える音として配置されていた。こういう整え方は練習で身につくものじゃない。きっと日々の選び方の積み重ねだ。

時間はゆったり流れた。数字の上では一時間少し。でも体感は季節をまたぐみたいに、景色がゆっくり変わっていく。最後の数分、彼女はいつものように正面ではなく“すこしだけ横”の世界を見た。その流し目が、言葉の続きでは語り切れない余白をそっと残す。ここから先は、各自の想像で――という合図。

今日の余韻
まっすぐと、横顔。その間にある数秒のやさしさ。
言葉より先に、姿勢がこちらを受け止めてくれた気がする。

また会いに行くと思う。きっと同じ時間ではなく、また別の光の色で。

―― ヒジ 🌙


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