ささやきの姫。
あそびの記憶 / 声だけでほどける夜の短篇
画面のない夜は、想像に優しい。
受話器の向こうの姫は、言葉の粒を少しずつ落として、ぼくの耳の奥に灯りをともす。
姿は見えないけれど、だからこそ近い。間合いは声の温度で決まって、沈黙さえ会話の一部になる。
「今日は、眠れる?」
彼女の囁きは、部屋の空気を静かに撫でていく。
小さく笑う気配、呼吸がふっと緩む瞬間、そのすべてが音の輪郭になって伝わる。
君の“見えない表情”を、ぼくは耳で受け取っている。
まぶたを閉じると、言葉の先に色が生まれる。
その色を確かめるように、ぼくは褒め言葉をそっと返す。
「いまのあなたの声は、夜のやさしさそのものだ」
たったそれだけで、遠さがほどけて、世界がひとつ分だけやわらかくなる。
触れずに届く距離があることを、声は教えてくれる。
見せない強さ、見えない優しさ。
眠りの手前、吐息だけでほどける時間の淵で、ぼくは思う。
褒めることは、相手の輪郭を静かに守るおまじないだと。
―― ヒジ 🌙









